訪問に出るスタッフと外来スタッフの間に、なんとなく変な空気が流れている。誰か一人が悪いとも言い切れないし、何が原因かもはっきりしない。ただ、頑張っている子が浮いて見えたり、外来スタッフのテンションが落ちているように感じたりする。そんな、名前のつけにくい違和感はないでしょうか。

この「温度差」は、スタッフ個人の性格や相性だけで起きるものではありません。訪問歯科の兼任という変化に対して、スタッフが自然に示す反応が連鎖した結果として生まれることがあります。しかも厄介なのは、対処を間違えると静かに悪化していくことです。

私は前職で、訪問歯科の立ち上げから外来と訪問をまたぐ体制づくりまで、外来と訪問の両方を見ながら組織づくりに関わってきました。その経験の中で見えてきた「温度差が生まれるときの構造」を、院長が見立てやすい形で整理してお伝えします。

院長が感じる「なんとなく変だな」は、たいてい間違っていない

外来との温度差を感じる場面には、大きく分けて3つのパターンがあります。ここでは、院長が訪問に出ている間に代診Drが外来を担当し、一部のスタッフが外来と訪問を兼任している状況を想定して整理します。(先生の医院と違うパターンであっても共通点があるかもしれませんので、ご自身の状況に置き換えて読んでみてください。)

パターンA:忙しさは同程度なのに、兼任スタッフが浮いて見える

院長不在の外来を他のスタッフが回し、訪問にも出る兼任スタッフがいる。忙しさの総量は極端に偏っていないのに、兼任スタッフだけがなんとなく孤立して見える。外来スタッフとの会話が減ったように感じる。こうした違和感が出やすいパターンです。

パターンB:外来側の負担感が強く、不公平感が出ている

外来がかなり忙しい、あるいは代診Drとの相性や診療の進み方に負荷がある。その状態では、外来側から「訪問の方がラクなのではないか」という見方が広がりやすくなります。表立って言葉にはならなくても、不公平感が空気として出てくるパターンです。

パターンC:外来は比較的落ち着いているのに、訪問側の不満がたまっている

外来がそこまで逼迫していない一方で、訪問を兼任しているスタッフの側に負担感や不公平感がたまっている。けれど、その不満が院長にまっすぐ届かず、なぜか訪問チームと外来スタッフの間がぎこちなくなる。院長から見ると発見が遅れやすいパターンです。

それぞれのパターンで、実際に何が起きやすいのか

パターンAで起きやすいこと

忙しさが大きく偏っていないのに温度差が出る場合、兼任スタッフが外来側から「院長に近い人」「少し特別な立場の人」と見られ始めることがあります。すると、そのスタッフ自身も無意識に周囲との距離を調整しようとして、院長への不満を少し口にしたり、逆に必要以上に外来側へ気を遣ったりすることがあります。

このとき問題なのは、誰かに悪意があることではありません。兼任スタッフは兼任スタッフで板挟みですし、外来スタッフも外来スタッフでバランスを取ろうとしている。その結果として、変な遠慮やぎこちなさが生まれ、空気が少しずつ濁っていくのです。

パターンBで起きやすいこと

外来側の負担が明らかに強い場合は、「訪問の方がラクしているのではないか」という不公平感が出やすくなります。実際には訪問にも訪問の大変さがありますが、外来側からその負荷は見えにくい。見えない仕事は、どうしても軽く見積もられやすいものです。

このパターンでは、訪問兼任スタッフが「訪問も大変だ」と強く説明し始めたり、逆に外来スタッフの側が「今の外来の忙しさはおかしい」と訴え始めたりすることがあります。どちらも感情としては自然ですが、院長からすると、知らないうちにスタッフ間で是正の圧力が高まっている状態になりやすいので注意したいところです。

パターンCで起きやすいこと

外来が比較的落ち着いている場合は、訪問側のスタッフの不満が院長に直接向かわず、まず周囲のスタッフとの会話の中に出てきやすくなります。院長からすると「直接言ってくれればいいのに」と思うかもしれませんが、経営者と従業員という立場上、それが難しいことは珍しくありません。

このとき起きやすいのは、当事者の不満が別のスタッフを通じて少しずつ広がっていくことです。最初は小さな不満に見えても、放っておくと「何となく院長に言いにくいことがある」という空気がチーム全体に広がりやすくなります。

先生の医院では、当てはまることはありますか?

  • 訪問に出るスタッフと外来スタッフの会話が減った気がする
  • 頑張ってくれている訪問スタッフが、なんとなく孤立して見える
  • 外来スタッフのモチベーションが下がっているように感じるが理由がわからない
  • スタッフ間で仲の良いグループの境界線ができてきた
  • 不満が、本人ではなく別のスタッフ経由で耳に入ることがある

1つでも当てはまる場合、この先の対処の考え方が参考になるかもしれません。

院長が取りがちな3つの対処と、その逆効果

「頑張っている訪問スタッフを守ろうとする」

頑張っているスタッフが浮いて見えると、院長としては守りたくなるものです。しかし、ここで院長の保護が前に出すぎると、外来側には「やはり特別扱いなのだ」という印象を強めてしまうことがあります。

守ること自体が悪いのではありません。ただ、スタッフ間にすでに温度差があるときは、その優しさが別のスタッフには贔屓として見えてしまう。ここが難しいところです。

「外来スタッフに厳しくする」

訪問兼任スタッフの方が頑張って見えると、外来スタッフに対して厳しめの言葉を向けたくなることがあります。しかしこれは、どのパターンでも空気をさらに悪くしやすい対処です。外来側の不満が、「訪問への不満」から「院長への不満」に変わってしまうことがあるからです。

「そのうち落ち着くだろうとスルーする」

時間が経てば薄まる違和感もありますが、スタッフの採用が難しい昨今の環境では、火種を抱えたまま放置するリスクは小さくありません。特に「何となく変だな」と感じている時点で、院長の感覚はだいたい合っています。見ないふりをすると、表面化したときには退職や対立という形で出てくることもあります。

対処の方向性

具体的な打ち手は医院ごとに異なりますが、共通して有効な視点は2つあります。

視点1:訪問を「一部のスタッフの仕事」にしない

訪問歯科で得られる高齢者対応の知見や、口腔ケア、摂食嚥下の視点を、外来スタッフも含めて共有していくことです。朝礼後の数分でも、訪問から戻った後の短い時間でも構いません。訪問が「特別なチームの仕事」ではなく、「医院全体で担う歯科医療の一部」だと共有されるだけで、温度差はかなり変わります。

視点2:声を上げていないスタッフにも目を向ける

外来スタッフの中には、訪問に興味があっても自分からは言い出せない人もいます。あるいは、兼任しているスタッフの負担を見て、あえて手を挙げなくなっている人もいるかもしれません。院長からの声かけひとつで、空気が変わることがあります。

この視点を持つと、訪問兼任スタッフを増やすことが単なる人手の問題ではなく、外来と訪問を分断しないための組織づくりにもなっていきます。

まとめ

外来スタッフと訪問スタッフの間に生まれる温度差は、誰か一人の性格の問題ではなく、医院の成長の変化に対してスタッフが自然に反応した結果として起きることがあります。

だからこそ、「誰が悪いのか」を探し始めると、たいていうまくいきません。必要なのは、今どんな力学が起きているのかを院長が見立てることです。

先生が「何となく変だな」と感じているなら、その感覚は大事にした方がいいと思います。外来と訪問の間にある小さな違和感は、放っておくと人間関係や離職の火種になることがあります。