施設での訪問枠が増え、レセプト枚数も保険点数の合計も先月より伸びている。なのに月末の手元を見ると、思ったほど変わっていない。そんな感覚が続いている先生もいらっしゃると思います。

その感覚の原因は、患者数でも診療の質でもありません。施設患者さんが治療フェーズから定期管理フェーズへ移るにつれて、1レセあたりの平均単価が下がっていく。これは訪問歯科ならではの収益構造です。拡大中の医院ほど、最初は見えにくく、気づいたときには数字にはっきり現れます。

私は前職で訪問歯科の拡大と現場運営に関わってきました。その経験から、院長が持っておきたい収益の見方をお伝えします。

レセ枚数だけを追っていると、収益の変化を見逃す

院長がよく確認するのは「今月のレセ枚数」と「保険点数の合計」です。どちらも増えていれば、「順調に拡大している」と感じやすい。

ただ、訪問歯科では 1レセあたりの平均単価 を見ないと、本当の変化をつかみにくいことがあります。

施設では、同じ建物内で同日に複数人を診るほど、1人あたりの歯科訪問診療料は下がっていきます。

診療人数(同一日・同一建物内)

歯科訪問診療料(1人あたり)

1名のみ

1,100点

2〜3名

410点

4〜9名

310点

10〜19名

160点

20名以上

95点

たとえば同じ施設で20名を診ると、1人あたり95点です。居宅で1名を個別訪問したときの1,100点と比べると、10分の1以下になります。

施設では訪問ルートと移動時間が少なく、まとめて診られる分、効率が良さそうに見えます。しかし「何人診たか」だけで見ると、この構造が見えません。忙しさは増えているのに、利益の伸びが鈍い。ここで初めて違和感として出てきます。

治療が一巡した後に、「思ったより収入にならない」が起きる

もう一つ大事なのが、治療フェーズから定期管理フェーズへ移るタイミングです。

施設へ入った当初は、治療が必要な患者さんが多く、補綴物などの算定もあるため、月全体の点数は高く見えやすいです。この段階では「患者数が増えれば収益も増える」という感覚になりやすい。

ところが、ひと通り治療が落ち着くと、診療内容の中心は定期的な口腔管理へ移ります。患者数もスケジュールも大きく変わっていないのに、算定の中身が変わる。これが「忙しいのに思ったより収入につながっていない」という感覚の正体です。

患者さんは責任を持って診ていかなければならないので、単価が下がったからといって簡単に切り離せる話ではありません。だからこそ、構造を理解していないと、施設患者を増やし続けることでさらに収益が薄くなる悪循環へ入りやすくなります。

先生の医院では、思い当たることはありますか?

  • 収益が伸び悩んだとき、まず「患者を増やさなければ」と考える
  • レセプト枚数の増減を主な経営判断の根拠にしている
  • 売上の多くが特定の1〜2施設に集中している
  • 訪問先のほとんどが施設で、在宅患者が少ない
  • 施設患者さんが治療から管理期へ移ってから、収益の感覚が変わった

1つでも当てはまる場合、「何を見るか」という視点を変える必要があるかもしれません。

「在宅患者の割合」という視点を持つ

私自身も、訪問歯科の運営を見てきた過程でこの構造を痛感しました。だからといって施設介入を否定したいわけではありません。問題は、構造を知らないまま量だけを追ってしまうことです。

そこで、どのフェーズの院長にも共通して持っておいてほしい視点が一つあります。

自院の訪問患者のうち、在宅(居宅)患者がどのくらいいるかという割合です。

居宅で1名を訪問する場合、歯科訪問診療料は高い単価を維持できます。在宅患者の割合を把握しておくことは、収益構造のバランスを見るひとつの指標になります。

最適な比率は医院の規模、地域、成長フェーズによって変わるので、「何%が正解」とは言えません。ただ、在宅患者がほとんどいない状態は、収益の偏りと施設依存リスクが同時に高まりやすい状態です。

「レセ枚数を見るな」ということではありません。 レセ枚数だけに引っ張られるな 、ということです。

まとめ

「患者数が増えているのに思ったより収入につながらない」という感覚の背景には、訪問歯科ならではの2つの構造があります。

1つは、同一施設内での複数人診療による 歯科訪問診療料の逓減 。患者が増えるほど1人あたりの単価は下がります。

もう1つは、治療フェーズが終わって定期管理へ移ることによる 算定内容の変化 。患者数が変わらなくても、収益の質が変わります。

この構造を知らずにレセ枚数だけを追い続けると、忙しさは増しても、なぜ手元が変わらないのかが見えなくなります。在宅患者の割合、施設集中度、患者の治療/管理フェーズの比率。こうした視点を持っているかどうかで、経営判断の解像度は大きく変わります。

先生の医院の1レセあたりの平均単価は、拡大とともにどう変化していますか。

在宅患者の割合や施設集中度の見方、どこで収益が薄くなりやすいかという判断軸は、私がこれまでの現場経験の中で持ってきたものです。先生の医院の状態に合わせて一緒に整理することもできます。