訪問先の介護施設やケアマネジャーへ地道な声かけは続けているのに、一向に紹介につながらない。そんな状況が重なると、「もう何をやっても変わらないのではないか」と疲れてくるものです。
紹介が来ない時期が続く原因は、声かけの量や粘り強さの問題ではない場合が少なくありません。足元——今の患者さん、ご家族などのキーパーソン、ケアマネジャー、施設から本当に喜ばれているか——が固まっていない状態での声かけは、手応えのないまま消耗戦になりやすいからです。
私はキャリアの中で、多くの介護職員やケアマネジャーから率直な声を聞いてきました。その経験から見えてきたのは、「続けること」そのものより、「足元を確認しながら続けること」の方が大事だということです。
紹介が来ない時期に向かいやすい「内側への改善」
紹介がなかなか来ない時期、院長が向かいやすい改善行動にはいくつかのパターンがあります。それ自体は間違いではありませんが、本質から少しずれていることもあります。
診療の質や対応スピードを上げようとする
質の高い診療は大前提です。ただ、紹介が来ない原因がそのまま診療の質にあるとは限りません。歯科医療は専門性が高く、外部の人には良し悪しが見えにくいからです。
もちろん、患者さん・ご家族などのキーパーソン・ケアマネジャーの誰から見てもわかるトラブルは別です。ただ、多くの場合は「質を上げれば紹介が増える」という単純な話ではありません。
診療機材を充実させる
新しい訪問機材の話を聞くと、導入したくなる気持ちはよくわかります。実際、医療スタッフの士気が上がることもあります。
ただ、機材の充実と紹介が増えることは別の話です。紹介する側が見ているのは、機材のスペックそのものではないことが多いからです。
焦りからスタッフへの要求が増える
紹介につながらない状態が続くと、院長の目にはスタッフの足りないところが強く映り始めます。「もう少しこうしてくれれば」「なぜここが届かないのか」と感じるのは自然です。
ただ、その空気はスタッフとの関係だけでなく、訪問先にもにじみます。患者さんやご家族などのキーパーソン、ケアマネジャーから見て、「感じの良いチームが来ているかどうか」は想像以上に印象へ影響します。
相手との相性や数の問題だと考える
原因が見えないと、「相性が悪いのかもしれない」「もっと件数を回るしかない」と考えやすくなります。ただ、そこでアプローチの中身を問い直さないまま動き続けると、同じことを繰り返しやすくなります。
この4つに共通しているのは、改善の矢印が自院の内側か、相手のせいに向きがちなことです。けれど、本当に見直したいのは、「外から自院がどう受け取られているか」の方です。
「え?そこ?言ってよ!」——現場に残る小さな不満
診療として真っ当なことをしている、という自負を持つ先生は多いと思います。それはとても大切なことです。ただ、それでも紹介につながらないとしたら、先生の努力が正しく伝わっていない可能性があります。
私がケアマネジャーや介護職員から直接話を聞いてきた中で、何度も感じたのは、「え?そこ?言ってよ!」と思うような小さな不満や遠慮が、実はかなりあるということです。
- 実は歯科訪問の時間帯が他サービスとかぶっていて、毎回調整が大変だった
- 実は別の曜日に来てほしかった
- キーパーソンへの連絡の仕方にもう少し配慮してほしかった
- ご家族が前回の診療をどう感じていたかが、後からケアマネジャー経由で入ってきた
「確認してYESをもらっていた」という先生もいると思います。ベースはそうですが、相手は遠慮して表面的に了解しているだけで、小さな不満までは出していないことがあります。直接聞いたことと、遠慮なく話してもらえたことは別なのです。
私自身、最初は「それならその場で言ってくれたらいいのに」と思ったことも何度もありました。ただ、医療機関に対して率直に物を言える人の方が少ない。そう考えると、相手が遠慮せず相談できる空気をつくること自体が、紹介を増やす土台になるのだと気づかされました。
先生の医院の状況を、一度振り返ってみてください
- 紹介が来ないのは、ケアマネジャーや施設側の都合・相性の問題だと感じている
- 「もっと挨拶の機会を増やせば変わる」と思い、中身はあまり変えていない
- ケアマネジャー・施設・ご家族などのキーパーソンから表に出にくい要望を引き出した経験が少ない
- 訪問時間帯や曜日、連絡方法について「OKをもらった」で止まっている
- スタッフが訪問先からどう見られているかを把握できていない
1つでも当てはまる場合、見直す余地があるかもしれません。
紹介が増えた院長がやっていた「問い直し」
それでも声かけをやめないことは大事です。ただ、それと同時に持っておきたい問いがあります。
「当院の訪問歯科は、今の患者さん・ご家族などのキーパーソン・ケアマネジャー・施設から本当に喜ばれているだろうか?」
この問いを持ち、その答えを探し続けているかどうか。ここで差が出ると私は感じています。
変化が生まれ始めた院長に共通していたのは、患者・ご家族などのキーパーソン・ケアマネジャー・施設キーマンそれぞれのニーズを少しずつ把握し始めたことでした。そして、その理解が院長一人の中だけで終わらず、スタッフにも広がっていったとき、紹介の流れが変わり始めます。
ただ、遠慮なく話してもらうことは簡単ではありません。院長自ら聞くには立場上の難しさもありますし、チーム全体を巻き込みながら改善するのも容易ではありません。ここには、院長が経営者でありながら一つの医療チームを率いていることの構造的な難しさがあります。
まとめ
断られ続ける時期は、単に声かけを続ける時期ではありません。外の声を拾い、自院がどう受け取られているかを問い直す時期でもあります。
紹介が増えた院長は、声かけをやめなかった院長というより、声かけを続けながら「本当に喜ばれているか」を問い続けた院長です。
改善のヒントは、意外と自分の外側にあります。