介護施設への挨拶や営業をしてみたものの、思うように前に進まない。競合の歯科医院が営業代行を使っていると聞いて、「自院も同じことをした方がよいのだろうか」と考えたことのある先生もいらっしゃると思います。
施設への直接営業が新規依頼につながることはあります。ただ、本当に見るべき問題は「どう営業するか」ではありません。施設営業に依存した構造を作ると、依頼が増えても経営が不安定になっていく。そのことを知らないまま動くと、後からかなり苦しくなります。
私は前職の医療法人で訪問歯科の立ち上げから拡大に関わる過程で、施設営業の限界や危うさ、そして依存構造に入ってしまった歯科医院を見てきました。その経験から、営業行為そのものではなく、「営業依存」がなぜ危険なのかをお伝えします。
施設営業で依頼が増えても、壊れやすい3つの構造
新規依頼につなげるための施設営業にはいくつかの手段があります。ただ、どの手段も依存先になると、経営をじわじわ蝕みます。
構造① 院長自身が施設へ営業し続ける
院長が診療の合間を縫って施設を回り続けるやり方には、継続の再現性がありません。院長の時間と体力に依存した仕組みは、忙しくなるほど続けにくくなります。
しかも、施設側のキーマンがその時間に手を空けている保証はありません。突然来た相手に、わざわざ時間を割く理由もない。誠実に動いているつもりでも、受け手によっては「こちらの都合が見えていない人」と映ることもあります。
構造② 営業人材を雇用する
競合が営業人材を置いていると聞くと、「うちも同じようにやるべきか」と考えたくなります。ただ、歯科医院や医療法人の顔として施設に出ていける人材を見極めるのは、想像以上に難しいものです。
もし採用できたとしても、新規依頼の流れがその人に集中しやすくなります。何がうまくいっているのかが院内で共有されないまま、その人の力量に支えられて回る。そうなると、退職や関係悪化がそのまま新規依頼の停滞に直結します。
ただ、その裏で利益の一部を紹介料として払い続ける契約になっているケースもあります。そうなると、依頼が増えても利益が残りにくくなり、さらに新患を追い続けないと回らない状態に入りやすい。営業依存の怖さはここにあります。
なぜ「営業で入れた施設」は脆いのか
私自身、多くの施設への営業を経験し、実際に介入が決まった施設もありました。ただ、その一部は後になって、他院のより強い営業によって失いました。
「営業で入れた施設は、別の営業で奪われる施設でもある」——これは現場で身をもって感じたことです。
一方で、前職での経験では、介入後に施設スタッフとの信頼を丁寧に積み上げることで、別施設から相談につながる場面もありました。営業でつながった関係と、信頼で根づいた関係は、時間が経つほど差が出ます。
営業そのものを否定したいわけではありません。ただ、営業に頼って思考停止することがいちばん危険だと感じています。
信頼で根づいた関係は、営業だけの関係より揺らぎにくい
施設内で紹介が広がっていく歯科医院に共通しているのは、施設側のキーマンが利用者さんに対して持っている思いに向き合っていることです。
「もっと食べてほしい」「痛みを取ってあげたい」「自分の口で食べて元気になってほしい」——そうした思いに対して、歯科医療としてどう貢献できるかを考え、言葉にし、応えていく。これは営業トークではなく、相手の立場に入り込んでいく対話です。
こういう関係は、後から来た別の営業だけでは揺らぎにくくなります。ケアマネジャーからの紹介で施設に入ること、そしてケアマネジャーとの信頼の作り方については、ケアマネジャーに「また話を聞きたい」と思ってもらう院長の共通点で詳しくお伝えしています。
先生の医院では、当てはまることはありますか?
- 施設への営業(挨拶回り・DM・FAX)を続けているが、介入につながっていない
- 営業代行業者や紹介業者の利用を検討したことがある
- 競合が営業人材を置いていると聞いて、自院でも雇用を考えたことがある
- 営業で介入できた施設があるが、そこから依頼がなかなか増えない
- 施設との関係が「依頼を受けるとき」だけになっている
1つでも当てはまる場合、施設との関係を信頼ベースに切り替える余地があるかもしれません。
まとめ
施設営業が新規依頼につながることはあります。ただ、その構造に依存すると、依頼が増えても利益が残らず、営業が止まれば依頼も減り、経営の主導権まで外に握られやすくなります。
私は実際に、紹介業者への依存が深まり、依頼は増えているのに利益が残らず、立て直しにかなり苦労された医院を見てきました。そのとき痛感したのは、営業依存は患者数の問題ではなく、経営の主導権を失いやすい構造の問題だということです。
訪問歯科を行う医院が増えるこれからの時代、営業依存の仕組みはますます持続しにくくなります。長く残るのは、信頼で根づいた患者・施設との関係です。